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2011/06Archive list
JIN-仁-第11話 感想
最終回。
前回「最終章・前編」の最後に描かれた、苦しむ南方先生と、その苦しみを何とか取り除いてあげたい咲さんと野風さんの対談から物語は始まります。
ああ、だから今回は「最終章・後編」なんだ、と妙に納得しました。

最初の、何気ないシーン。
この時点では、未来に帰ることを、もう諦めていたんですよね。
しかし、咲さんが緑膿菌に感染したことを知った先生は、彼女のために、もとの世界に戻ることを真剣に願う。
自分のためでなく、愛する人のために。
そして「ここにない薬」を取って戻ってくるために。
すべてが名場面だったような気がします。
上野戦争などを通して、それぞれの人間の生きざまを魅せてくれました。
南方先生。咲さん。恭太郎さん。佐分利先生。仁友堂のみんな…登場人物が、みんな、丁寧に描かれていました。
それぞれが、それぞれの役割の中で、懸命に生きていた姿が印象的でした。
そして、現代へ…
「歴史ドラマ」から「現代ドラマ」へ。
『JIN』はその垣根すら越えた。
同じスペシャル版である第1話と比べてみると、第1話は池田屋事件~禁門の変と、「歴史ドラマ」に比重を強く置く作りで、現在の腐った大河ドラマに対しての果たし状であると同時に、第1期の『JIN』を見てきた人にとっても、歴史という大きなハードルを目の前に突きつけた。
「このドラマを堪能したいのなら、これくらいの歴史は予習しておけ!」と言わんばかりの威風堂々とした振舞いに、度肝を抜かれた人も多いのではないかと思います。
最終話も、自然とそのような形を予想していました。
前回のラストである江戸城無血開城から上野戦争までは2ヶ月あり、その間にも、歴史は奥州を中心に複雑な動きを見せています。
上野戦争そのものはたった1日で終了するのですが、第1話の禁門の変と同じような扱いだと考えると、やはりこの戦いを中心に最終話は構成されるのであろう、と。
あくまで幕末が8~9割で、最後にタイムスリップの謎を解き明かし、このドラマは丸く収まるのだろう。
そう思っていました。
後半40分の「現代編」は、これだけでひとつの別のドラマが作れそうなほど、十分に練り込まれていましたね。
それまでの「幕末編」から急転直下で場面をガラリを変える手法は、このドラマ独特の多面性を見るようでもあり、
「俺たちは、現代ドラマでも充分にいいものを作れるんだ」
という、スタッフの心意気を見せつけられたような気がしました。
さすがTBS大河。
最後まで輝き続けましたね、『JIN』。
惜しみない賞賛の拍手を、制作陣全員に贈りたいと思います。
ありがとうございました。
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謝辞を述べ終わったので、感想に入っていきたいと思いますが…
やはり僕は歴史好きなので、どうしてもこの場面を最初に取り上げてしまいます。

江戸城から約3kmという目と鼻の先。
上野の山に集まった旧幕府軍残党<彰義隊>を駆逐すべく、新政府が起こした戦いを指します。
ちなみに、ドラマ中では彰義隊の江戸での活動は市民からも煙たがれていたような印象がありましたが、実際は、江戸の民衆は官軍気取りの新政府軍に冷たく、むしろ彰義隊の市中見廻りは歓迎されていたようです。
もっとも、恭太郎と彰義隊の立ち位置を考えたときに、彰義隊を正義の軍隊をするのも都合が悪いでしょうから、あのような扱いになったんでしょうけどね。
※ちなみに、僕が来週から連載を再開する『続・龍馬伝』では、彰義隊をかなり重要な役割として書く予定ですので、最終話で上野戦争を取り上げてもらったことはタイミングがいいというか、読む側にとっても「あ、JINで出てきたあの部隊だな」と思い入れをもって読んでくれるのではないかと思っています。
以上、宣伝でした。
この上野の戦いを巡っての、恭太郎・咲さん・南方先生・栄さん、の人間ドラマが素晴らしかったと思います。
龍馬を殺したことを悔い、そんな自分が「のうのうと生き続ける」ことを許せず、上野の山で命を散らせることを本望とした恭太郎。
罪を犯したからこそ、恥を偲んでも、這いつくばっても生きねばならぬと言う咲さん。
自らが信じてきた徳川の世と信条と、新しき世に対する、複雑な気持ちを吐露する栄さん。
何かを伝えようとした南方先生。

ここは、前半の核となる名場面だったと思います。
このドラマを通してのテーマである「命」というものを、それぞれの視点で捉えているんですよね。
恭太郎が殉じようとした「武士としての命」
咲さんが訴えようとした「ひとりの人間としての命」
栄さんは、その両者の狭間に揺れる。
そして南方先生は「医者としての命」を守るべく、第1話の時と同じく、緊急の治療所を設置することを決断する。
そこに訪れた、悲劇。
そして、恭太郎の心にも変化が…

このシーン、すごく好き。
南方先生の言葉で、目が覚めた恭太郎。
国家より家族のために尽くすことは、少しも恥ずかしいことではない。
今では当たり前のことかも知れませんが、当時の武士階級で、これを声高に言うことができたか。
そう考えると、南方先生でしか言えないセリフだったと思います。
そして…自らの意思で武士道を捨てた橘恭太郎。
今までは、家族を大事にしたい自分の本心を偽って、無理にその当時の価値観に合わせようとしていた。
その中途半端な姿が、どうしても見ていてイライラさせていたんです。
しかし、最終的には、自分の気持ちに正直に生きることを誓った。
「腰抜けでございます」と笑いながら言う恭太郎は、今までで一番カッコ良かったです。

このシーンでも、いろんなことを思いました。
まず、南方先生は、人を区別しないんですね。
家族が大事だという恭太郎の気持ちを汲んだのなら、それを分からない彰義隊の人間はけなしても良さそうなものなのですが、彼らは彼らで、大切なものを守ろうとしたのだと理解している。
南方先生の中では、家族も、徳川家も、まったく等価なんですね。
「その人が大切だと信じるモノ」を守ろうとする、その心こそ大事にしたいと思っている。
そして今、彰義隊の気持ちに、咲さんを失うかもしれないという自分の気持ちを重ねている。
同時にこれは、番組制作陣のメッセージでもあると思います。
僕も、彰義隊に志願した人達は、彼らの哲学があり、それは現代の我々が軽々しく褒めたり非難したりすることのできる類のものではないと思っています。
歴史の中で死んでいった人達に対する畏敬の念を、このドラマがしっかりもってくれていることが、僕がこのドラマを見ずにおれなくさせた大きな要因でもあったのだと、今にして思います。
あと、ベタではありますけど、最後に先生と咲さんが抱き合うシーンがあって本当に良かったと思う。
このあと、咲さんを助けるために、南方先生は血眼になってホスミシンを探し始める。
自分を助けるためでもなく、他人を助けるよりもっと真剣に、咲さんのために、命すら惜しまず、現代に帰ろうとする。
医者である前に、愛する人を守ろうとするひとりの人間であったのですね。
その純粋な思いを大切にする人であるからこそ、違う時代に迷い込んでも、多くの人が慕ってきたんでしょうね。
さらに、橘咲ひとりを救うために、文字通り「草の根分けても」薬を探そうとする人達。
覇権を争う内戦でひとの命がアリのように扱われる一方で、ひとりの命を必死で救おうとする人々。
この対比に、胸を締め付けられるような思いがしました。
そして…
波の音。
坂本龍馬。
何を伝えたかったのか。
ドラマは現代に舞台を移す―
「歴史」とは、自分を含め全ての人間が作り上げた過去の集積のようなもの。
ある時代のある人のある行動がどんな結果をもたらすのか、その因果関係は複雑すぎて人智を超えているが、しかし間違いなく、その時代の全ての人間が、歴史の一端を担っている。
そこに別の人間が加わった段階で、すでに歴史は違うものになってしまっている。
番組内では「すでに多数のパラレル・ワールドが存在している」という解釈でしたが、僕は、何かの拍子で時空が歪められる度に、世の中が分岐してゆくのではないかと思いました。
南方先生がタイム・スリップした時点で、別の世界(B)が発生し、現代に帰ってきたときに、さらに別の世界(C)が生まれる。
「歴史の修正力」とは、もとの歴史に戻そうとする力でなく、時空の歪みにより矛盾が生じないように、世界を分岐させてゆく力を指すのではないか。
番組とは少し違いますが、そのような解釈もアリだと思います。
あと、もうひとつ、言いたいことを。
「これは、たかがフィクションだから」と言ってしまうのは簡単です。
ただ、人間が理解できることなんて宇宙の真理のほんのごく一部に過ぎないのですし、バニシング・ツインが胎児性腫瘍となり、龍馬の血液によりその人格が宿るようになったという説も含めて、そういったことが現実に起こったとしても別におかしくないのではないか。
そういった、人智を越えたできごとを、古来より「奇跡」と呼んできたのではないか。
そのようにも思えてきました。
現代に帰って改めて、かつての日々を思い起こす南方先生。
南方先生がタイム・スリップして現代に戻った以上、幕末には南方先生はいなかったという別の世界(C)が広がっていた。

もうこのあたりから、何ともいえない複雑な気持ちが胸に広がってゆくんですね。
「悲しい」とも「寂しい」とも「切ない」とも少し違う、独特の感情。
恐らく自分が感じたその何百倍も、当の南方先生は感じであろうと思うと、余計に胸が苦しくなりました。
このあたりの音楽、すごく好き。
ラストシーン。
歴史の修正力に抗うように、それはありました。
古ぼけた手紙。
彼女の想い。
南方先生に対する恋慕が、彼女の記憶を押し留めた。
その想いが、140年の時を経て、彼のもとに手紙を送り届けた。
南方先生の想いが、ホスミシンを幕末に送り届けたように…

咲さんに語りかけるように、手紙に語りかける先生。
ふたりは結局結ばれませんでしたが、しかしこの瞬間、時空を越えてふたりの心はひとつになったのではないか。
そう思いたい。
番組の最後のメッセージ。
当たり前のこの世界は、誰もが戦い、もがき苦しみ、命を落とし、勝ち取ってきた、無数の奇跡で編み上げられていることを、俺は忘れないだろう。
そして、さらなる光を与えよう。今度は、俺が未来のために。
歴史に対する畏敬の念を最後まで貫いた制作陣の方々に、心から敬意を表します。
ありがとうございました。
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