「獄に咲く花」感想

(『「獄に咲く花」公式サイト』より)
「獄に咲く花」
「獄」と書いて「ひとや」と読むのですね。
昨年公開された映画です。
原作本のタイトルは『吉田松陰の恋』(古川薫著)
物語の内容としては、原作本のタイトルの方が分かりやすいと思います。
ブログ読者の方から教えてもらい、この映画のことを知り、今回見ることになりました。
以下、ネタバレを極力抑えながら、書いてゆきたいと思います。
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そうですね…
正直、見る前の印象としては、あまり良くありませんでした。
「恋だの何だのって、どうせ、歴史上の人物に恋物語をやらせてみたってことでしょ?」的な感じで思っていたんです。
ネットの評判でも「もっと吉田松陰の業績を取り上げてもらえたら良かった」という声もありましたし。
実際、その通りでした(笑)
ただ、恋といってもどこかの大河ドラマであるような、何もかもセリフで言わせるようなそんな下品なものではなく、俳優さんの演技で微妙な感情の揺れを表現するような、日本人らしい映像表現でした。
これについては、相手役の近衛はなさんの演技力が光っていたと思います。
それと、上に書いたネットでのいち批評について。
確かに、吉田松陰の業績は、ある程度知っていることが前提になっていたかと思います。
ただ、彼の言葉の端々から彼の情熱が伝わってきて、決して「恋物語に終始して、吉田松陰の人物像が描けていない」ということはなかったと思います。
むしろ、獄中にあってなおも国家を憂い行動を起こそうとする、力強い吉田松陰がキチンと描けていたと僕は思います。
まあ、そのそも期待値が低かったので、そのギャップが良かった。
イヤ、本当にいい映画でしたよ。
僕は、今はやりの3Dとかなんとかの映像と音楽に頼り切る映画より、こういう地味だけど、ひとつのことをまじめに描き切る映画の方が好きですね。

物語は、吉田寅次郎(松陰)が「野山獄」といわれる長州萩の牢獄に入れられることから始まります。
監獄の中での物語ですから、暗くじめじめした物語をイメージしがちですが、この映画、意外に明るいんです。
その一番の要素が、寅次郎の子供のように無邪気な言動。
だいたい、牢屋に入れられる時はみんな暗い顔をしているようなものですよね。
寅次郎は、最初から上の笑顔ですから。
そして、囚人に大きな声であいさつをして回る。
このあたり、最初から(いい意味で)拍子抜けしてしまう始まり方をする映画なのですが、彼の明るさの理由は、やがて分かってきます。
「自分は、自らの信念に従って行動したまで。
恥じることは何ひとつしていない」
国家を想い、未来を信じ、あくまでも自分の信念を貫こうとする寅次郎。
牢獄というマイナスイメージの中で、また、囚人たちがもつ倦怠感や絶望感の中でこそ、その姿が目立つんですよね。
「牢獄の中での生活なんて、見ていておもしろいのかな?」とはじめは思っていましたが、希望を失った囚人たちと、決して希望を失わない寅次郎の対比がすばらしく、またこの後に展開される寅次郎と囚人たちの交流を通し、彼らが虎次郎に影響されてゆく姿が見ていて微笑ましく、いいところに目を付けた映画だと思いました。
…あ、言い忘れましたが、「野山獄」とは、藩士のための牢獄で、囚人たちは獄舎内を自由に行き来できたんです。
つまり、ある程度の自由は担保されていた牢獄だったんですね。
こんな感じです。(牢獄内の風景です)
…ただし刑期満了の基準はなく、言うなれば生殺しで藩に飼われているような状態だったんですね。

これ以上突っ込むと「ネタバレ注意」になりますので、この辺にしておきます。
まとめると、良くも悪くもシンプルな映画だと思います。
音楽はひとんどひとつの曲に統一されていますし、全体的に静かな感じです。
セリフも少なく、物語の進行もゆっくりですので、ぼーっと見ていても十分に理解できます。
そして、唐突に妙な古風メロドラマっぽい演出が入るので、びっくりします。

不自然にスローモーションになるんですよ、ここだけ。
こういうシーン、2、3ヶ所ほどあるのですが、だいたい、ふたりの恋が進展する(?)重要なシーンと思われるところに出現します。
このドラマのウリらしく、予告編でももれなく入っていましたね。
ただ僕は、こういうあからさまな見せ場も排除してあくまで淡々と描き切ったほうが、より切なさを訴えることができたのではないかと、そこは残念に感じました。
吉田松陰といえば、ふたつの有名なことがありますよね。
ひとつは、黒船に密航しようとしたこと。
もうひとつは、松下村塾を開いたこと。
今回の物語は、その間と、その後に彼が経験した獄中生活がメインになっています。
牢獄に入れられてなお信念を曲げなかった松陰の姿は、自分にとってはまばゆいばかりの存在に見えました。
彼を仰ぎ見る牢獄の囚人のひとりになったような気分で、この映画を自分は見終えました。
ご興味を持たれ方は、ぜひご覧になって下さい。
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「桜田門外ノ変」見てきました。
前回の予告編から1週間。今日、見てきました。

ホントは昨日行きたかったのですが、仕事が長引いたため最終の21:00講演に間に合わず。
涙を呑んで、今日、15:20からの分で見てきました。
今、帰ったところで記事を書いています。
中学生のころ特撮映画(ゴジラとか)にハマっていて、その頃はよくひとりで映画を見に行ったのですが、それ以降なく、ひとりで映画館に行ったのはホント久しぶりです。
妙に緊張しました。
ただ、劇場に入ってみるとけっこうひとりの方が多く、夫婦らしき人はいましたがカップルらしき人はほぼ皆無で、この映画らしいなぁ…と妙に感心してしまいました。
ほとんどが僕(33才)以上の年齢で、なんだか少し恥ずかしかったです。
…って、何を書いてんだか

本題に戻り、感想書きます。
一言でいうと、
「幕末リアリズム」の意味が分かりました
この映画のテーマである「幕末リアリズム」
どういう意味か、この映画を見てよく分かりました。
つまり、「過剰な演出や脚本を加えず、あくまで史実に忠実に」ということです。
演出については、龍馬伝はじめ最近のドラマが音楽を使って盛り上げるのに対し、この映画はバックミュージックが本当に少ない。今のドラマの慣れた人からすれば、すごく静かな感じがすると思います。
もうひとつ。3Dに象徴されるように、最近の映画は「視覚効果」を重視していますよね。
CGの多用はもちろん、カメラワークもわざとブラしたり、ズームアップ・ズームダウンをしたり…という最近の映画の流れは用いず、けっこう真正面からカメラを向けています。
脚本も、史実をもとにした「桜田門外ノ変」(吉村昭)の原作を忠実に再現しています。
あくまで「ヒーロー物語でなく、桜田門外の変を描く」というスタンスが明確に現れているように感じます。
たとえば、このシーン。

桜田門外での井伊直弼襲撃事件は、比較的早い段階で描かれるのですが、このシーン、暗殺側が刀を抜いているのに対し、井伊の警護側はほとんど刀を抜いていないんですね。
実は、事件当日雪が降っていたため、護衛側は柄袋をしていて刀を抜くのに手間取り、ほどんどが柄袋のまま「斬る」のでなく「叩く」ように闘った。その結果、派手なチャンバラでなく、肉弾戦の様相を呈します。
井伊を狙った一発の銃声を合図に斬りかかったというのも、史実通りです。
その他にも「なるほど、実際はこうなるよな」と納得できるシーンは多々ありますが、そのあたりは劇場で(またはレンタルビデオで?)お確かめ下さい。
さて、開国・攘夷について。
この思想をどう扱うかは、僕も注目していました。
映画が攘夷側の水戸浪士を主人公にしている以上、攘夷が優位に立ちそうなものですが、この映画では、攘夷も開国も、ともに日本を思ったゆえの行動であると、非常に公平に描かれています。
映画によると…
井伊直弼はアヘン戦争・アロー戦争の影響から、通商を拒めば清の二の舞になるという理由で、大老の地位を利用して開国を進め、反対派には断固たる処置を取ります。
水戸藩主・徳川斉昭の攘夷論についても、感情的に攘夷を主張したのではありません。尊王の思いの強い水戸藩として、朝廷の許可なく井伊が勝手に条約を締結したことに反対し、朝廷の意志を尊重すべきだと訴えた。さらには、清国が開国の結果外国に食い荒らされるのを見、仮に開国により武力侵攻を防げたとしても、貿易を始めれば結果的に「清が戦争に負けたのと同じ結果になる」ことを示唆する発言もしています。
そういった状況の中、安政の大獄が勃発。
井伊直弼が強権を発し、自分の意見に反対する人間をことごとく弾圧。
徳川斉昭も水戸に永蟄居(水戸城から外に出るのを禁じる)されます。
水戸藩士の中には、藩主・斉昭公をないがしろにし、幕府を意のままに操り、朝廷をも足元に置こうとする井伊直弼の横暴を許すまじ、という声が日々強くなってきます。
このまま井伊の専横を許しておけば、水戸藩のみならず、日本が滅びる。
「井伊を討つべし!」の機運が高まってくるのです。
佐藤監督の言葉です。
「歴史の評価とは常に現在の人が決めるもので、善も悪もないというスタンスで本作に取り組んだ。だから、史実にあくまで忠実に、エンターティメントとして面白くするためのフィクションは排除した」
まさにそれが前面に出ています。
開国にしろ攘夷にしろ、お互いの正義をしっかりと描いているところが素晴らしい。
井伊直弼も悪役ではありません。正々堂々を自分の意見を述べる。
主人公も、井伊直弼を討ち取ったのち、その行為が正しかったのか、反問するシーンが描かれます。
過剰演出を控えた分、全体としては淡々とした感じに仕上がっています。
感動するシーンもあるのですが、それがメインでない以上、「泣ける映画」と期待してこの映画を見てしまうと、残念な結果に終わることになると思います。
しかし、映画を見終わったあと、水戸浪士の無念さは深く心に残りました。
井伊直弼暗殺に成功はしましたが、彼らは主君の仇討ちのために井伊を殺したのではない。
前日に脱藩状をしたため、水戸藩に迷惑がかからない上で行った行為。
それには「日本を救うためには、井伊を斬るしかない」という、彼らの正義があったのです。
しかし、薩摩の歯車がたったひとつ狂ったため、幕府だけでなく水戸藩からも追われる身になった首謀者たち。ある者は自刃し、ある者は捕らえられ、最後はたった一人になった主人公・関鉄之介(大沢たかお)の運命は、まさに「歴史の波に翻弄された」と表現するのがぴったりです。
開国か、攘夷か
この映画を見たひとりひとりに突きつけられたテーマであると感じました。
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「桜田門外ノ変」見てきます。
桜田門外ノ変
10月16日公開
「豪華解説本付き」の言葉にノセられて(?)、前売り券買ったので、見てきます。
題材がピカイチですね。
「桜田門外の変」を映画の主題にもってくることがオドロキで、拍手喝采です。
今まで、大河ドラマなどでも歴史の一場面として取り上げられてはいましたが、「メインはナレーションで映像はオマケ」的な扱いだったと思うので…
※ネットで調べたら、栄えある第1作目の大河ドラマが、井伊直弼主人公の「花の生涯」でした。1963年です。
民放でもこの「花の生涯」は何度か映像化されているようですが、これと違う点は、今回の「桜田門外のノ変」は、井伊側(幕府側)でなく、水戸藩士側を主人公にして描かれること。
「水戸藩」も、あまり歴史ドラマの表舞台には立たない存在ですね。
「尊王攘夷論」が理論として大成されたのはこの水戸藩で、つまり、攘夷から幕府批判の先駆けとなったの藩です。
のちにカゲキ運動を展開する長州藩にも大きな影響を与えます。
映画のテーマが
幕末リアリズム
「リアルな幕末を描こう」ということでしょうか?
龍馬伝の「幕末ロマンス」や「幕末の現代風解釈」とは違う。
そう確信しています…!
予告編の中で「開国か、攘夷か」というシーンがありましたが、攘夷派志士たちを主人公に描く以上、攘夷思想を悪くは描けないはずで、どのように攘夷と開国の対立をもってゆくのかも楽しみです。
骨太のテーマ。
これに、愛・別れ・友情といった感動のシーンが組み合わさっていたら、言うことないんだけどなぁ…わくわく

追伸
「豪華解説本」は、本当に豪華でした。というか…B4サイズって、デカイ!
公式サイトも、なかなか迫力あります。
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映画「長州ファイブ」動画
普段は映画を借りることなんてないのですが…
たまたま、家の近くでゲオのレンタル10円セールを見て…
「10円なら、失敗してもいいか…」と、借りましたが…
けっこう良かった


<ストーリー>
長州藩が、攘夷実行のため馬関海峡で外国の商船を砲撃した1863年5月10日。
前年には、映画の最初に出てくる生麦事件も起きています。
その最中、長州藩から5人の若きサムライがイギリスに密航します。
長州の目的は、
真の攘夷
日本に来る異人をかたっぱしから斬ったとしても、圧倒的な軍事力に勝る西欧列強にやられるだけだ。
まずは西欧の産業・軍事技術を習得し、彼らと肩を並べてから、その軍事力により攘夷を行うべきだ。
こういう考え方です。
つまり、「攘夷」とは言っても、開国派の考え方にむしろ近い。
それでも…
頭の先から足の爪先まで攘夷に染まり切っていた当時の日本人。
理屈は納得できても、彼らが鬼か化物かと憎む外国人の中に飛び込むというのは、精神的にはそうとうの葛藤があっただあろうと思います。
映画の中で5人が「武士を捨てる」というシーンがありますが、それは、自分が精神の拠り所にしていた精神を捨て去るということであり、重要なシーンになっています。
イギリスに渡り、彼らが見たものとは…
藩こそ命という、その考えを改めるに十分な光景だったのです。
この映画のいいところは、
「役者がその時代を体当たりで演じていて、カッコをつけていない」
ということです。
演じている役者の顔ぶれも、主役の松田龍平は別としても、他のメンバーは(失礼ですが…

松田龍平にしても、映画の中では特別な存在でもなく、むしろ5人の中の1人として収まっています。
「龍馬伝」のカッコイイ高杉晋作やカッコいい(?)坂本龍馬もいいのですが、むしろこちらの方が、武士という精神の支柱を捨ててまでイギリスに渡った決意や熱い想いがストレートに伝わってくる気がします。
井上聞多、伊藤俊輔だけでなく、留学組の誰もが後の明治政府を支える人材になった歴史的事実をみても、彼らがいかにイギリスで多くのことを学んだのかが分かりますよね。
動画DL(標準質版MP4) →DL
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※i-Rocker(その他動画)にもアップしました。
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